【特別インタビュー】『県民性マンガ うちのトコでは』作者・もぐらさん

兵庫キャラが……いない!?
こんにちは。兵庫県広報官の湯川カナです。
長崎に生まれ、青年時代を東京で過ごし、その後、スペインに10年。
そこから初めての関西、初めての兵庫。
いま住んでいる神戸、そして大阪に行く途中の阪神間のこと以外はほとんど知らないまま、兵庫県の広報を担当することになりました。
ある日、県政150周年イベントの広報について打ち合わせをしていると、あまりに兵庫県のことを知らない私をみかねて、プロジェクトリーダーの松田さんが一冊の本を渡してくれました。
「兵庫のことを知りたいなら、コレ、いいですよ」
それが、『県民性マンガ うちのトコでは』でした。
……って、マンガ? 何カ所にも、ピンクのふせんが貼ってあります。
ページを開いてみるとそこには、「サービス精神旺盛な」大阪キャラ、「オシャレでクールな」神奈川キャラ、「姐御肌の」福岡キャラ……に混じって兵庫キャラが……いない!?
あ、いました、いました。えっと……5体!!! 神戸(摂津)、播磨、丹波、但馬、淡路。
「1都道府県につき1キャラ」というこの本の、唯一の例外。
「異なる文化風土を持つ地域が集まってできたために、まとめるのがとても難しかった」ということです。
この5つのキャラクターが、そのまま、兵庫県のもとになった「5国」なのですね。
うわ、もう、あかん、号泣。
『うちのトコでは』は、4コマ漫画が中心となっています。
4コマ漫画って、すごい。
1868年に神戸が開港し、5国が集まって兵庫県となったアウトラインを、たった4つの場面で説明してくれています。
そして、第1巻の後半からは、読み切り長編『夢の懸け橋』が始まります。
本州と四国を繋ぐ3本の連絡橋がどうやってできたのか? プロローグは、こんなかんじ。
昔から『四国と本州を繋ぐトンネルか橋を』と言われていましたが、初めて技術的な裏付けに基づいた架橋の具体的構想を出したのは1940年、後の神戸市長。
当時の常識から見ると「現実離れ」した提案。それを、「神戸を物流の要に」「関西から日本を変える」という思いに燃える神戸が、周囲と対立や理解を繰り返しながら、必死で実現させていこうとする姿が、リズムよく描かれています。
そして来る、1995年1月17日、午前5時46分、「大地震発生」。
あの「陽気でお洒落 便利な街」神戸が、起き上がれないほどのダメージを負ってしまいます。
そこから地域や周囲の手助けも受けながら「瀬戸内3橋」の実現に向かって進んでゆくのですが……うわ、もう、あかん、号泣。
×
そんな『うちのトコでは』作者のもぐらさんに、どうしてもお話を伺いたくて、電話でインタビューを申し込みました。
もぐらさんは、愛媛は松山にお住まいでした。
「『五国』って、普通ですよね?」
初めまして、湯川です。あの……実は私、地元に住んでいながら「五国」というのをつい最近まで知らなかったので、愛媛のもぐらさんが「五国」を描かれたことに、とても驚いたのですが。
えっ、そうなんですか? 兵庫の「五国」って、普通ですよね?
それとも、意外と地元の方が、かえって意識されていないということなのでしょうか。私はもともと『四国四兄弟』という、四国4県をきょうだいにたとえたマンガを描いていました。
そのうち、他の都道府県の読者さんから「うちの県も描いてー」という要望をいただいて、それならと47都道府県の擬人化をしたのが、『うちのトコでは』の始まりです。そのなかで、徳島と淡路の関係が地理的にも歴史的にも深いので、「淡路」を独立したキャラとして描きたいと思ったのが、兵庫のキャラクターが5体になったきっかけです。
「脳内で、播磨が(笑)」
「日本全国の長姉だと思っている。神話的に。」の淡路さんですね。
とはいえ、日本全国で唯一、兵庫県を5つのキャラクターにしたのには、何か他にも思いがおありだったりしますか?
「兵庫」というと、現代のステレオタイプな全国イメージでは「神戸」になると思うんです。
でも、歴史を切り口に描くとき、「兵庫=神戸」だと違和感が大きかったんですよね。私の脳内で、播磨が激しく主張した、というか(笑)。
実は私の住んでいる松山では、赤穂浪士をしのぶ「松山義士祭」が毎年行われているんです。
たしか、仇討ち後の赤穂浪士を何人か、伊予松山藩が預かったという縁があると、聞いたことがあります。
なので、赤穂などの「播磨」というのは、わりと親近感があるというか、身近なイメージとしてありますね、そういえば。
「お叱りも受けました。」
そして長編『夢の懸け橋』ですが……。泣きました。
震災から約10年後に描かれたことになりますが、それで、もともと神戸を主役として企画されたのですか?
いえ、もともとは、3つの橋がかかっている四国を主役にするつもりだったのです。
だけど、いろいろ調べていくうちに……本当に資料がなくて図書館に通って貸出禁止図書を毎日読んだりも繰り返していたのですが、これは、神戸を主役にする方が話として構成しやすいと思いまして。
でも、震災のあたりは、描いていて辛かったです。
実は、橋の話だけにして、震災のことはスルーできないかと考えたこともありました。
でもやはり、橋も震災もひとつの歴史なのだから、その一部を恣意的に取り上げないというのはおかしなことだと思い直して、描かせていただきました。
実際、「震災をネタにするのか」とお叱りも受けました。
でも、神戸市の長田区、激震地区だった地域に取材に行ったときに、地元の方から「ありがとう」と言っていただいたんです。
震災から10年が経って風化が進むなか、こうして興味をもってもらえる機会をつくっていただけるのはありがたい、と。
「よくぞ五国にしてくれた。」
本当に、私も、小学校6年になる私の娘も、私たちがこの土地に来るだいぶ前に起こった「阪神・淡路大震災」のリアルを知る、ひとつのきっかけになりました。
あの、1ページまるまる使って神戸さんが泣くところで、号泣、です。
そう言っていただいて、本当にもったいないというか、ありがとうございます。
あのシーンは、たくさんの方から、「泣いた」と言っていただきました。
私なんかが書いていいのかなという思いはずっとあったのですが、そう言っていただけて、本当によかったです。マンガを出させていただいてから、ありがたいことに、たくさんのご意見をいただいています。
県民性といってもステレオタイプが協調されているので、もちろんあくまでもフィクションなのですが、「たしかにそう」「いやここは違う」など、リアクションをいただくのは嬉しいですね。兵庫が5体なので、他の県からも「うちも複数キャラにしてくれ」という要望もよく届くのですが、複数キャラが必要なのは、それぞれ地理も歴史も”県民性”も全く異なる”国々”が多数まとまった、兵庫だけだと思っています。
兵庫の方からのリアクションは、すごく好意的ですよ。「よくぞ五国にしてくれた」って。
▶〔広報官’s Eye〕
古代日本の神事に、「国誉め」というものがあったそうです。
目の前の山、川、人など、「そこに在る」光景を称えるのだといいます。
中央道添いの競馬場やビール工場をうたったユーミンの『中央フリーウェイ』も、砂まじり茅ヶ崎から江の島が見えてきたサザンオールスターズの『勝手にシンドバッド』も、いわば現代の「国誉め」だと説明する方もおられます。
もぐらさんが兵庫県にしてくださったことも、やはり「国誉め」のようなことなのではないかと思いました。
私は、もしこの『うちのトコでは』を読んでいなかったら、播磨さんの豪快さも、但馬さんの素朴さや実直さも、丹波さんの真面目さも、淡路さんの神話感も、そして神戸(摂津)さんの社交性も、これほど輪郭をもっていきいきと感じられていなかったと思います。
もちろん、これらのキャラは、ステレオタイプで、フィクション。
でも、但馬出身の同僚に「但馬って素朴で実直だっていうけど、そうなの?」と訊いたら、「いや、そんなことないですよ。但馬だって、素朴じゃないひとも、実直じゃないひとも、いますから」という、実に素朴で実直な答えが返ってきて、ひとりでニヤニヤ楽しくなったりしました。
今回インタビューを終えて、あらためて、全国の県民性をキャラクターとして俯瞰しつつ、兵庫にも深い理解と親近感をもってキュートに描いてくださっているもぐらさんという存在に感謝するとともに、私も、もっと兵庫のことを深く知っていきたいなと思いました。
そう、脳内でキャラクターが激しく主張するくらいまで!
▶『うちのトコでは』(1~5巻/飛鳥新社)
特設サイト(試し読みあり) http://www.asukashinsha.jp/uchitoko/▶近日刊行『御かぞくさま御いっこう ありがちな家族のとるに足らない日常編』(竹書房/10月25日(木)発売)『日本人が意外と知らない日本三大○○』(竹書房/11月15日(木)発売)
(兵庫県広報官・湯川カナ)