過去最大の融資額が意味するものとは『突撃、隣の県職員 ー 特別ver,』vol.023

地域金融室が実施している「中小企業融資制度」の融資額が、1兆円目前という過去に例を見ない額になっている。
現在、県のHPに掲載されている助成金や支援施策の数は、従来からあるものも含めると数十はある。でも、「これは国の助成?県の?」「もらえるの?借りるの?」「対象者は?」。理解している人はどれほどいるのかと思うほど多種多様だ。今回、中小企業への融資制度を担当する野村さんに、金融面から見るコロナ禍について兵庫県広報専門員の清水奈緒美が聞いた。

 

半年間で6つに増えていった融資メニュー。その変遷は

地域金融室の初動は今年1月末。隣国での新型ウイルスの感染一途を世界が見守るさなか、中小企業のための特別相談窓口が県に設置された。2月末、地域金融室で従来から行ってきた中小企業融資制度のメニューのひとつを拡充する形で、新たに新型コロナ関連の融資策の第1号を作ったそうだ。「この時期、2月下旬から3月上旬、『中国からの製品や材料が入ってこなくなって、製品が作れない』『売上が立たない』といった電話相談が増えていきました。さらに、期末に向けて早く資金調達したいといった声などを受け、新メニューを検討し、3月半ばに、3つの新型コロナ関連融資策を追加しました」と野村さん。しかし、卸業者や製造業等に始まった経済的なダメージは、飲食業、サービス業へと拡大していき、4月、緊急経済対策の補正予算において‟無利子(当初3年間)・無保証料”の融資策を打ち出した。

なぜ、内容や対象要件が少しずつ異なるメニューが用意されるのか。「例えば、金利よりもなるべく早く審査が終了することを重視したメニューがあったり、『コロナで今後何が起こるか分からないので、手元に十分な資金をもっておきたい』という方もいるので、オプションのように上乗せして借りる時に負担の少ないメニューがあったりします。融資期間、金利、用途、要件など、異なる融資メニューが多様にあるのは、それぞれ、意図する役割がちがうからなんです」とのこと。

 

中小企業融資制度は、三者共同での融資

ここまで読んで「県が融資をしている」と思わせていたら申し訳ないのだが、この中小企業融資制度は、県が直接お金を貸すのではない。お金を貸すのが金融機関である点は、一般的な融資と同じであるが、金利が安く設定されている代わりに、県は、金融機関に“預託”という形で無利子でお金(原資)を預ける。一般的に中小企業は信用力が低いので、円滑に融資を受けるために信用保証協会に保証料を支払ったうえで保証してもらう。万が一、中小企業が返済できないときは保証協会が中小企業に代わって金融機関へ代位弁済をする。
県は保証協会の経営が悪化しないように代位弁済の一部を損失補償する。「通常、金融機関がお金を貸すには、私たちの預金などを元に資金調達をしないといけないんですが、県が金融機関に資金としてお金を預けるので、金融機関はその預託金を運用に使うことができますよね。この融資制度は金利が低いんですが、金融機関が運用によって利益を生み出せる部分で低金利を賄ってもらうということです」と野村さん。


行政、金融機関、保証協会の三者が共同するこの中小企業融資制度自体は、昭和の時代からあるものだそうだ。「このメニューの内容や数は、時代によってどんどん変わってきています。通常の金融機関の融資より金利が低いものがほとんどですが、貸すのは金融機関なので、金融機関は企業の財務状況を見ながら、『制度融資を選択するのか』『返済が滞るリスクも踏まえて独自の融資で貸すのか』、また中小企業も『保証料の支払いをして、低金利で借りる』のか、そうでないか。県としても、貸す側の金融機関にとっては貸しやすく、保証協会にとっては経営の過度な負担とならず、中小企業にとっては借りやすい、そんなメニューを作っていかないといけません」。

リーマンショック時を大幅に上回る融資額。それを支える体制

今、この制度の融資額が1兆円目前だ。野村さんによると、「昨年度までは、融資額は1年で900億円ほど。リーマンショックの時で、5000億円という融資額が出て、それは規格外の数字だと思っていたんですけど、今、それを遙かに超える融資額が出ています」とのこと。相談窓口への電話を通して、企業の切迫感を感じると野村さんは言う。「実際に『金融機関で融資が断られた。死ねっていうことか?』とか『もう店を畳んでしまおうか』『賃金を払っていかなあかんけど、なんか方法はあるか』という相談もあります。なかには、『県がお金を貸してくれる』と思って電話をかけてくる方もいるので、こちらが『金融機関に行ってもらわないといけないんです』と答えると、『ほな、県は何をしてるんや』という声もあります」。

一方で、こういう状況だからこそ、力を発揮する点もあるそうだ。「この制度は、県内の53機関、1000近い支店で申し込みができるので、窓口が多いのはスケールメリットです。これが、例えば行政単体で融資を実施していたら、とてもじゃないですが、審査が進まないと思いますので。コロナ禍では、金融機関も協会も、普段は審査をしない人もヘルプに行くとか、まさにチームで向かっていました」。

 

融資のセーフティネットとしての役割

地域金融室へ配属される前、野村さんはオリックス(株)へ出向していたことがあったそうだ。「その時にお世話になった方が、『いかに価値を生み出し、提供できるか。それが、自分たち会社の存在意義だ』と言われていたんですが、その意味が今になって、分かる気がするんです。中小企業融資制度は、いわば“融資のセーフティネット”。平常時には、それほど出なくても、緊急事態にこそ役立ててもらえるという存在意義があるんだと感じています」。

そう語る一方で、今後の課題とコロナ禍での気づきもあるそうだ。「ただ、今、倒産を防いでいくという部分で、この融資の役割は大きいですが、2~3年後の倒産を増やさないために何ができるかを考えるのも、地域金融室の課題です。金融は、よく血液循環に例えられますが、新型コロナ関連の融資策はあくまで、“止血”。これから、展開や設備投資用の融資メニューの方が多く使われて、中小企業が事業を継続でき、経済が流れていく必要があるなと。そして、コロナ禍で、これまで保証協会が対象にしていなかったパチンコ屋やスナックなどの業種が対象になったりと、新しい試みも必要となりました。いざという時に必要とされるのであれば、その際、すぐに動けるように体制を柔軟にしておく必要があるなと感じています」。

 

 

過去最大の融資額が意味するものは、企業、経済への打撃の大きさに他ならない。しかし、同時に、強い者が使える前向きなお金だけではなく、下から支えるような小口のお金がたくさん必要な時もあるという、まさにセーフティネットの重要性もそこにはあるだろう。時にきめ細かく、時に柔軟な網の目を作り続ける。今、行政手腕が試されている。

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