vol.003 「Beer Cafe Barley」服部和夫さん 「商品と空間と…。お店を“作っているもの”とは」

阪急「西宮北口」から徒歩5分。世界と日本のクラフトビールを常時、100種類ほど取り揃える店「Beer Cafe Barley」があります。営業自粛がきっかけで、お食事のテイクアウトを始めるお店もありますが、「Barley」のようなお店はお酒をテイクアウトしてもらうわけにもいかない…。

「さぁ、これから飲もうか」という時間に苦渋の閉店。

清水 クラフトビールの専門店って、お酒がメインのお店ですよね。夜の営業を自粛して、しんどくなかったですか。
服部 ご想像の通りです。普段は13時から夜中までの営業なんですが、緊急事態宣言が出てからは、アルコールの提供は、19時までで20時に閉店してましたね。19時というと、「さぁ、これから飲もうか」って時なんですけど…。でも、お客さんの方も「仕方ないね」という感じで、みんなでガマンしてました。

清水 お客さんは、お店が早く閉まるなら、早く来る人もいらっしゃったんですか。
服部 そうですね、近隣の方が早めに来てくれたりしてました。ビールの本場、ヨーロッパに倣って、昼間からアルコールを楽しめるよう、お昼から夜までの通し営業をしていたので、それが救いになったのか、お昼に寄ってくださる方がいました。
清水 とはいえ、お店の収益は…
服部 激減ですね。3月くらいから減りはじめ、緊急事態宣言が出て、空気もがらっと変って、月によっては、最大で7割ほど減った月がありますね。

 

そこで、服部さんが利用したのが、お客さんにチケットを購入してもらう、いわば“前払い”によって、飲食店を応援するサービス=「ハロトコ」です。

「がんばりましょうね」。常連さんからエールを。

服部 新聞記事で「ハロトコ」っていうシステムがあるのを知って、とりあえず、登録をしようと。それが4月下旬です。具体的にどういうチケットにするかを決めて、実際に販売を開始したのが5月上旬ですね。
清水 どういうチケットを売られたんですか。
服部 3種類のチケットを販売しました。ひとつは、1割のプレミアをつけた3,000円のチケット(3,300円分の飲食ができる)。遠方からたまに来てくださる方がいるんですけど、今回のコロナで心配の電話やメールをいただいたんです。そういう方向けに、1回で使いきれるものとして販売しました。あとは、ドラフトビール(770円~820円)がどれでも11杯飲める8,000円のチケットと、1枚1,000円として使える飲食券が11枚つづりになった9,000円のチケットです。
清水 売り上げは、どんな感じでしたか。
服部 思っていた以上に買っていただいて、1か月ほどで販売をやめたんです。今の時期は、キャッシュが入って助かるんですが、あまりに売れ過ぎると、実際にお客さんが来られても、お支払いがない状態が続くことになって、自分の首を絞めますから(笑)。
清水 なるほど。でも、そこまでの売り行きはさすがに想定外ですよね。
服部 そうですね。10万円、20万円でも、現金が入ればと思って、登録をお願いしたので。正直、「お得なチケット販売しましたー」と出したはいいが、売れなくても悲しいので、ありがたかったですね。購入の多くは、リピーターさんなんですが、チケット購入時にいろいろメッセージも書いてくださったりして、うれしかったです。
清水 どんなことを書いてくださってたんですか。
服部 「私はBarleyでビールを覚えました。がんばってください!」「なんとしてでもお店、20周年までがんばりましょう」とかですね。

 

今年16年目を向かえた「Barley」。お店をオープンしたのが、服部さん、40歳の時でした。

「10年、20年後にこの組織でどんな風に働いているんだろう」

服部 それまでは、東京で大学の職員として働いてたんです。企業や官公庁が、管理職研修とかの研修をする時に、講師を派遣するコーディネーターをしていました。
清水 あ、東京の方ですか。
服部 はい、もともとは。で、転勤で関西に来て、西宮市に住んでたんですけど、その頃、「10年、20年後、この組織でどんな風に働いているんだろう」と考え出した時でもあって。仕事そのものに対するモチベーションも変ってきてました。「ベテランなので、仕事はできる。けども、“自分の成長”という点では、このままでいいのかな」と。最後は、「この上司とは合わない」というのが決定打になったんですが(笑)。今思うと、勢いって怖いですね。
清水 でも、なんで、ビールの専門店だったんですか?
服部 もともと、地ビールは大好きで、飲んだり、ちょっと勉強したりもしてました。クラフトビールのお店って、東京には当時もありましたけど、こっちには周りになかったんです。でも、飲食店って、1~2年で半数以上がつぶれて、10年で1割くらいしか残らないというのに、思い切りましたね。今思えば、根拠のない自信があったのかなと思います。

 

服部さんは、ビールの見識を深め、ビール審査会の審査を行う資格を取得。数あるビールの中から、見た目や香り、味わいをチェックし、鮮度の良い、一定の醸造品質を満たしたものしか店には並べない。

ビールによってサーバーの冷却温度を変える。

約100種あるビールは、単に数を用意するのではなく、味わいの異なるものを揃えている。

「酒場なのに禁煙」を貫く

清水 あのう、話は変わりますが、店内、きれいですよね。15年以上経ってるっていう感じはしないです。
服部 うち、禁煙なんです。お酒を楽しむ場にしては、珍しく…。
清水 開店当初からですか。
服部 そうです。だから、ヤニも付かないので、壁紙も当時のまんまで。
清水 なんで、こういうお店なのに、禁煙にされたんですか。
服部 自分も飲み歩きをしていて、当時のベルギービールとか1杯1,000円を軽く超えてたんですけど、ビールの香りを楽しもうにもタバコの煙が気になったんです。「なんで煙に邪魔されなあかんのか」と思ってたので、自分のお店では、絶対禁煙にしようということで禁煙にしました。

清水 たばこを吸う人は、外の喫煙所かどこかで?
服部 それもダメにしてます。喫煙スペースも、今はなくしてます。お客さんにもさんざん、「おかしいんじゃない?!」「飲むところなのに、何考えてるんや」って。「致命的だ」とまで言われました。ずっと葛藤はありますけど、自分も食べたり飲んだりするのは大好きですし、お客さんには、やっぱりそれなりのお金をいただくので、臭いに邪魔されないような環境を作らないとなと思ってます。

 

お店を“作っている”ものとは

清水 これだけ、ビールの種類があると、なんか、選べませんね。例えば、「フルーティーなのをください」って言われたら、何をどう選ぶんですか。
服部 まず、「フルーティー」に当てはまるものが、90くらい。
清水 えっ。


服部 でも、苺とかカシスとか、フルーツの味がするものがいいのか、日本酒の吟醸酒のような香りを指しているのか、甘さが欲しいのか、香りだけなのかとか、一口に「フルーティー」と言っても、いろいろあるんです。お客さんも人それぞれで、いろんな種類のビールを飲んだことがあって、ご自身で分類ができているような人から、暑いから飲みに来たっていう人までいらっしゃいますね。
清水 だったら、「おすすめください」は、ちょっと困りますね。
服部 そうですね、おすすめの100種類を置いているわけなので(笑)。「『全部おすすめです』と言ってはいけない」って、飲食店の教科書に書いてあるんですけど、未だに、お客さんと、そういうやり取りがスムーズにいかない時もあって…むずかしいです。常連さんは、そのやり取り見て失笑してますけどね。
清水 そこは、勘も経験も、と。
服部 もともと、私は、営業に近いような仕事をしてましたけど、決して、誰とでもフランクに話せるタイプじゃないんです。大人なお客さんが来てくれて、同じような感覚の人が集まって、そうやって、「居心地がいい」と感じてもらえるお店ができているんだろうなと。「お客さんに育てていただいて今がある」って思っているので。
清水 なるほど。お客さんと服部さんの人間関係も、きっと、このお店の大事な一部分なんでしょうね。同じお店を別の場所でしてても、今のお店になっていなかったでしょうし。
服部 ある程度、お店の考え方というのもあって、その考え方に共感してくださるお客さんを大事にしてきました。ひとりで入ると、ソワソワするようなお店もありますけど、うちは、ひとりで来られても、お客さん同士が気づかい合うような、そんな雰囲気があるように思います。そういうお店の雰囲気を作ってくださってるのは、やっぱりお客さんなんです。

 

 

吟味したビールを邪魔されない空間を服部さんが守り、それによって、時にお客さんを選んできたかもしれない「Barley」は今度、お客さんに選ばれている-。コロナショックを乗り越えられるお店には、商品やサービスがよいお店もあるのでしょうが、それだけではなく、お店を“お客さんと一緒に作る”、そんな関係を築いているお店もあるのかもしれません。

 

「Beer Cafe Barley」
西宮市長田町1-15 リバティー2 2F
営業時間 13:00~23:30(最終入店22:30) ※土日祝は昼12時より営業
定休日 火曜日
TEL 0798-65-6135
HP http://www.beercafe.jp/

 

取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美

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