vol.008 船江梨瑚さん&真綾さん 「チクチク。ふたりで、112個」

「自分たちのお小遣いでマスクを作って、県に贈ってくれた姉妹がいる」と聞いて、神戸市内のあるお宅を訪ねました。そんな立派なことをするなんて、さぞかししっかりした子たちなんだろうな…。お会いすると、梨瑚さんも真綾さんも、最初はなかなか目を合わせてくれないほど、初めての”取材”に、恥ずかしそうです。「あぁ、こんな感じのふたりが作ってくれたのかぁ」と私の予想は裏切られたのでした。

 

「子ども用のマスクがないんじゃないかな」

高校1年の梨瑚さんは中学時代、中学2年生の真綾さんは現在、家庭科部に入部し、これまでにスカートやコート、難しいものだと浴衣を製作したこともあるのだとか。コロナ渦の春休みのある日、マスクが不足していることをニュースで知り、梨瑚さんは「もしかすると、子ども用のマスクは特にないんじゃないかな。なら…作ってみよう」と早速、マスク作りに取りかかります。妹を連れ、近所の服飾店へ。表用の布と裏用の布70cm、ゴムひも、計1,500円ほどの材料費はふたりのお小遣いから。いくら手芸が得意とはいえ、マスクは作ったことがなかったので、マスクを1つほどいて、作り方を考えました。

マスクの下絵。「15cm×18cm」。ふたりで考えた子ども用マスクのサイズ。

材料と試作品のマスク

「試作品を1つ作って着けてみたんですけど、ちょっと小さくて…。もう少し大きめに修正しました」と梨瑚さんは話します。裁断とひだの折り目を付けるアイロンがけが、出来を左右するそうで、そこまでを梨瑚さんが、ミシンでの縫製を真綾さんが行います。そうして分担して作ると、1つ10~15分でできることが分かり、「これなら、たくさん作って、寄付できるね」と量産することに。布を買い足し、5日をかけ、111個のマスクを作りました。

 

なんで「県」に贈ろうと思ったのか

「どこかの施設とか神戸市とかでなくって、なんで兵庫県に贈ろうと思ったの?」。 尋ねると、「ぱっと思いついたのが兵庫県で。県に贈った方が、より不足しているところに届くのかなっと思って」と梨瑚さん。さらに、県への寄贈の際には、知事宛てに、大人用マスクも1枚作って送りました。「『こういうマスクを送ります』って、見本として知事に見せた方がいいのかな」と、素直な発想での製作だったようです。

「でも、”県”っていうのを、生活していて意識することがあるんですね」と聞くと、「う~~ん」とどちらとも取れる反応が。「子ども用マスクを、より不足しているところへ」と贈ったマスク。ふたりの意向を汲んだ県は、子ども用マスクを必要とする県内のいくつかの児童養護施設へマスクを届けました。

 

びっくり。受け取った子たちからお返事が。

「お手紙は、真綾が書こうって言い出したんです」と、妹さんの提案で、マスクにはひとつひとつお手紙を添えることにしました。

 

「マスクを作りました。ぜひ使ってください。手洗いうがいをしっかりしてコロナ対策をしましょう」。漢字には読み仮名つきです。「マスク作るより、手紙を書くほうが大変やったね(笑)」と、ふたりはクスクス笑い。「大変だったけど、その方がいいのかなって」と続けます。

 

そして、後日、マスクと手紙を受け取った子どもから、お返事が返ってきたのです。

 

「びっくりしました。お返事まで来たので、私たちが励まされた気がします」と、まさかの出来事だったようです。筆跡から見るに、さまざまな年齢の子どもたちが書いたであろうお返事。「マスクの大きさが自分に合っていました」。大きさを工夫していただけに、このメッセージが一番うれしかったそうです。

 

なにも、特別なことをしているとは…

梨瑚さんは、この春、高校へ進学したばかり。高校へは4月に1度登校したきりでしたが、6月にようやく学校が再開しました。家で学校の課題をしたり、妹と遊んだりして平常心で過ごしていた一方で、「学校、始まるんだろうか」という心配もあったそうです。「こういう事態になっていなかったら、高校受験も終わったので、本当は、家族でナガシマスパーランドとかUSJに行きたかった」とも。いろいろなガマンの時期に、自分のお小遣いと時間を人のために使う。「なんて立派なんだろう」と思ってしまいます。ですが、ふたりは「なにも、特別なことをしているって…思ってないです」とケロリ。

 

ふたりの行動に一番驚いていたのが、お母さんです。「親に相談なく、何かをふたりでやり始めたってことが、初めてだったので。私が家に帰ったら、『マスク送るよ~』って言うので、『えっ!なら、県に電話しないといけないのかなぁ。そもそも、県の何課に電話をするの?!』という具合で。でも、『いつの間に、こんなに成長してたんだろう』って、主人とも話していました」。

 

 

思えば、いつからでしょうか、気持ちで動くことができなくなったのは。大人になって、いわゆる”良いこと”をする時でさえ、「どこか、気恥ずかしい」「いいように見られたいと周りに思われるんではないか」。そんな考えが先行してしまいます。「なにも、特別なことをしているって…思っていないです」-梨瑚さんも、真綾さんも、決して誰かに褒めてもらいたかったわけでも、どこかにアピールしたかったわけでもないのでしょう。「学校が休業中の間は、よく洗濯物を畳んでくれていた」という真綾さん。今回の、マスクの寄贈も、”大変な人がいるかも。なら、自分にできることは…”。お手伝いをするのと同じ、とっても素直で気持ちで動き出したことだったのかもしれません。

取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美

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