vol.005 神戸肉流通推進協議会事務局長 谷元哲則さん 「世界の神戸ビーフ。ブランド食材ならではの葛藤」

2020年。このタイミングでのコロナショックは、オリンピック特需を見込んでいただけに、主な消費先が訪日観光客である神戸ビーフには大きな打撃となったといいます。では、「訪日観光客がだめなら、国内向けに…」と単に売り先を変えてさばけばいいのか、というと、そうとも言い切れないブランド食材ならではの葛藤があるようです。

“インバウンド”×”外食”。その両輪で回っている神戸ビーフ

清水 神戸ビーフの一番の消費者というと、どのあたりになるんですか。
谷元 一番の消費がインバウンドです。ですから、2月、海外から観光客が来られなくなって、一度、神戸ビーフの価格が下がって…。そして、緊急事態宣言を受けて外食産業が自粛となり、さらに需要が減りました。市場で、それまで1キロ4,000円前後で取引されとった枝肉が、3月は平均で3,000円を切って、以降、一番下がった時は、キロ2,000円を下回りました。

JA全農兵庫 提供

市場で売買される「枝肉」と呼ばれる状態の牛肉。

清水 ここまで下がったことはありましたか。
谷元 リーマン・ショックとかBSEの時に下がりました。でも、BSEは牛肉だけの問題なので、「安全な牛肉やで」って分かると需要も回復していきましたけど、今回のコロナはリーマン時以上に影響はありますし、外出の自粛要請が解けても、外食がすぐに元に戻るかといえばそうでもないでしょう。厳しいですね。ただ、2012年から輸出が始まっているので、そこは少し期待ができるところです。
清水 「期待」ということは、輸出の方が儲けが出るものなんですか。
谷元 そこはむずかしいところで、国内流通価格がベースで、それに輸出にかかる経費が上乗せされて…という感じなんですけど、つまりは、輸出だからといって大幅に高く卸せるわけではないんです。今、輸出されているのは、神戸ビーフ全体の1割弱くらいです。
清水 なるほど。でも、輸出分として確実に買われていくのは多少の救いと。
谷元 そうですね。

限定メニューとしての提供やおうちでの消費をしてもらう

清水 インバウンドで消費される予定だった神戸ビーフはどうなっているんですか?
谷元 もともと神戸ビーフは流通量が少ないので、行き先をなくしたからといって、スーパーで売るというわけにもいかないんです。スーパーも、扱うなら一定の量が必要で、「ここの店舗だけに神戸ビーフを置く」ということもできないでしょうし…。かっぱ寿司で今、「神戸ビーフのお寿司」をメニューにしてくれていますけど、そんな風に、限定メニューなどの食べ方で食べてもらっています。

清水 協議会として、なにか応援でされていることはありますか。
谷元 農家さんは、生産コストと販売価格の差額を補填する=「肉用牛肥育経営安定交付金事業(牛マルキン)」に加入されているんですが、その交付金が農家さんの手元にいくまでの間、一部の支払いを猶予しているであったり、それと今、消費拡大の取り組みをしてます。”神戸ビーフを3,000円以上買うと県の特産品をプレゼント”というキャンペーンで、第1、2、3弾とすすめていってます。

清水 キャンペーンの参加は、どんなもんでしたか。
谷元 第1弾は、用意していた5,000名までは達しなかったですけど、それに近い数の応募がありました。それ自体はうれしかったんですが、我々としては、インバウンドによる消費に重点を置きすぎた感もあっただけに、こういう時には「ぜひ買ってください」とお願いするというのが心苦しく思う部分もあります。

 

世界の神戸ビーフ。ブランド食材ならではの葛藤とは

清水 ところで、谷元さんは、神戸牛に携わって長いんですか。
谷元 家が、牛農家ということではないんですが、県の農業大学校で農業、畜産と出合って、それ以降、ずっと畜産一筋です。清水さん、ご出身は…。
清水 香美町です。昔から但馬牛(=但馬牛のなかで基準を満たしたものが神戸牛となる)を育てていたという香美町です。
谷元 私は、同じ但馬でも朝来市の出身です。長いこと畜産業を見てきていますが、神戸ビーフを含めて、「畜産って、常に儲かってたか」というと、決してそうではなく、神戸ビーフは、輸出が始まってから、世界から注目をあびて値段が上がってきましたし、そうして農家の方の夢が広がったり、「世界の神戸ビーフを生産したい」と後継者ができたりしていたところがあります。
清水 それだけの食材になってきてるんですね。
谷元 これまで、「おいしいお肉を作ろう」と農家さんも努力されてきましたし、当然、商品価値がある、ブランド力があるから高くで売れるわけなのでね。

清水
 ただ、国内でも神戸ビーフを食べてもらいたいでしょうし、輸出もしないといけないでしょうし、その辺はむずかしいですね。
谷元 そうですね。こういうことが起こって、「インバウンド消費がなくなった時、国内観光客や家庭での消費基盤も確保しとかなあかん」という考えもあるんでしょうけど、だからといって、今の方向性を大きくシフトしていくことはできないのかなと思っています。インバウンド消費と輸出を、引き続き、軸にしていかないと値段を保てないのでね、そこは。例えば、今回のように、国内の各家庭で消費してもらうために、価格を下げて大セールをすると、その時は買ってもらえるかもしれないですが、それは一時しのぎにしかならないですので。そのやり方では、農家さんの経営は、やっていけない。ブランド力を守るためにも、そこは慎重に…。値下げ競争みたいなことが起こらないようにすることが大事ではないかと思っています。

清水 単においしいお肉を作るだけではなくって、流通のことも考えていってようやく、ブランドが守れると。
谷元 神戸ビーフは年間5,000頭ほどしか出回らない。だからこそ、需要先を見極めるということと、今、牛肉もいろんな種類があって、値段もそれぞれですよね。ワインも「そこの土地で生産した」というところに価値があるものがありますけど、神戸ビーフも徹底して、血統にしても肥育場所にしても、兵庫県内に限っていて、そういう意味で、ワインの価値基準と似ているところもあります。そういった業界も参考にして、ブランド力を保ちながら、欲しい人、つまりは需要の高いところへ流れるようにしていきたいと思います。

清水 今回、神戸ビーフが大変な時に、何か支えになったものはありますか。
谷元 先ほど話のなかに出てきましたが、「神戸ビーフ・但馬牛応援キャンペーン」で牛肉を買ってくださったみなさんには、支えていただいたなと思っています。たくさんの方に購入いただいているので、感謝をしています。

 

 

取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美

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