vol.011 県立長田高校放送委員会 乘京志帆さん&小原由莉さん 「Nコンがなくなった!でも、この夏にしかできないことを」

私が取材を申し込むと、「生徒たちも、『ぜひ』と言っています!」と顧問の先生からお返事がありました。ありがたい反面、少し意外な感じも…。
7月のある日。この日は、学校が休業となった春以降、初めて放送委員会の9人全員が揃って部活動が行えた日でした。実に4か月ぶり。久々の集合に思い思いの感情を抱きながら、部員のみなさんは、発声練習を始めるのでした。

 

 

練習があれだけ楽しいと思えたのは、初めてです

「まっすぐ立って。丹田に力を入れて」。指示を出すのは、部長で2年生の乘京さん。今年の春、部長になったばかりです。

部長の乘京さん

約30分間、「ジャズシャンソン歌手、ジャズシャンソン歌手…」と、聞いているこちらまでヒヤヒヤするような滑舌練習を行います。本来であれば、この一連の発声練習も、毎日昼休みに行うものなんだとか。

清水 学校がお休みの間、部活動はどうだったんですか。
乘京 3月の初め頃から学校はお休みになって、部活もみんなでできなくなりました。最初は、「授業、予習せんでいい~♪」という気持ちもあったんですけど、だんだん「授業、ついていけるかな」「友達にも会われへんな」と、不安な気持ちが大きくなっていきました。
清水 各自で練習とかはしてたんですか。
乘京 そうですね。各自、自主練はやりたい人がやっていました。私は1週間に2回ほど読むくらいの練習でした。あと、グループ通話でミーティングをしたり、「この日までに音声データを送って」っていう課題が出されるので、音声データを先生に送って、先生から指導をもらったりしていました。
清水 小原さんは、どうでしたか。
小原 私は、家での練習はなかなかできなかったです。一軒家で周りを気にせず発声練習ができる人もいれば、マンションに住んでて、近隣の迷惑にならないように控えていた人もいるでしょうし。私の場合は、録音してると、後ろで兄弟が物音を立てたりして。数ヶ月間、ほとんど練習ができていなかったんです。「きっと、みんなは練習してるんだろうな」って、どんどん自分が取り残されているような感じがして、恐かったです。

左から 乘京さん、小原さん、筆者

乘京 やっぱり、「みんなでするから、自分もしよう」っていう部分もあるので。ステイホーム中は、モチベーションを保つのが、私は難しかったなと思います。
清水 今日は久しぶりにみんなと会えて、よかったですね。
乘京 会った瞬間、「うわ~!めっちゃ久しぶりやん!!」って。うれしかったです。発声練習があれだけ楽しいと思えたのは、入部以来、初めてでした。
清水 「発声練習が楽しいと思えた」って、なんか涙が出そうになります。
小原 私は、久しぶりに思いっきり練習をしたので、顔面の筋肉がピクピクなりました。他の部活と兼部しているので、どうしても練習時間が少なくなってしまっているのもあって。さっきの練習では、「あれ?今まではできてたのに…」っていう焦りも感じていました。

 

Nコンってなくなるの?!

全国高校総合体育大会(インターハイ)や全国高校野球選手権大会(夏の甲子園大会)などスポーツ大会の中止が大きく報道されますが、成果発表の場を失ったのは、運動部の部員だけではありません。放送部・放送委員会にとって大きなイベントのひとつで、毎年夏に行われるNHK杯全国高校放送コンテスト、通称Nコンも中止となり、それは、長田高校放送委員会のみなさんにとっても大きな衝撃だったようです。

 

清水 開催中止と知った時、どうでしたか。
乘京 正直、「まじか」の一言に尽きます。「Nコンってなくなるの?!」って。でも、顧問の先生が「ほかにも代替のものがあるよ」って間髪入れず、知らせてくれたので、「じゃあ、そっちがんばろう」って思えたんですけど…。ただ、そのNコンでは、強豪校のアナウンスを聞くのを楽しみにしていたので、「あぁ、聞かれへんのか」って。
小原 それに、Nコン兵庫県大会で上位に入賞したら、夏の甲子園大会の開会式、閉会式の司会ができたりっていう特典もあったんです。
清水 へぇ、そうなんですか。
小原 甲子園の司会なんて、絶対注目されますし、とんでもなく大きいスケールのアナウンスを任されることになるんですが。Nコンがなくなったので、もちろん、そのアナウンスの機会もなくなりました。高校球児が甲子園の土を欲しがるのと同様、放送部も甲子園の土をほしがっています(笑)。

 

実は、放送部大国の兵庫県

全国から2000校を超える参加があるNコン。そのうち、100校以上が兵庫県の高校だそうです。県立小野高校や県立東播磨高校など同コンテストで入賞する強豪校も兵庫には複数校あるのだとか。

小原 兵庫県って、甲子園の存在もあってか、実は放送部大国なんです。
清水 えぇ!知らなかったです。
乘京 兵庫県だけで、Nコン参加も100校を超えるので、例えば、朗読部門だけでも、兵庫県の予選大会は170人以上いたりして。兵庫は、激戦区だと思います。
清水 そうだったんですね。
乘京 Nコン全国大会の開催地は毎年、東京なんですが、2020年は東京五輪がある予定だったので、今年の全国大会は、なんと兵庫県で開催されるって聞いていました。
清水 それくらい、兵庫と放送部って切り離せない関係なんですね。
小原 はい。なので、楽しみにしていた分、残念に思っていますけど、きっと、強豪校の方々の方がもっと残念だったんじゃないかなと思います。

 

全国大会がなくなった。そこで、あるラジオ番組が動く

「放送部員にとって、大きな舞台を失った」。そこで、立ち上がった一人が、自身も放送部員だったラジオ関西アナウンサーの津田明日香さんです。県立小野高校に在籍中、Nコンの2部門で準優勝を果たしました。小原さんに言わせると、「Nコン準優勝は、夢のまた夢」なんだとか。その津田さんが「高校生たちに全国大会に代わる経験を」と、同局で「#放送部の夏 高校アナウンスフェス」を企画。朗読部門やラジオCM部門など、4部門で作品を募りました。
長田高校放送委員会のみなさんも、この企画に応募するため、応募部門によっては、原稿を書いたりと、各々が準備をすすめてきました。

 

そして、
発声練習の後は、応募作品の練習時間です。

 

ある生徒は、「昨日、校長先生に取材したばかり」の取材コメントを含む長田高校100周年をPRする原稿を。ある生徒は、「このコロナ禍で、クルーズをPRする意味って何だろう」を自分なりに考えて作った、フェリー会社のCM原稿を読んでいます。みんなの前で発表し、顧問の先生からフィードバックをもらう前に、生徒同士でも気づいたことを言い合います。
「地の文と、会話文の区切りがついていた」「カ行が続くので、気をつけて発声した方がいい」。なかには、「小さい『つ』の言い方が上手。聞く側のイメージが広がる」という細かな感想も。「あぁ、ほんまに、放送とかアナウンスが好きなんだな」とニヤリとしてしまいます。
それに触発されてか、これでも仕事でMCやリポーターを務める私。「間をもっと入れた方がいいかな」「声の量が安定している」と心の中で、フィードバックに参加していました(笑)。

 

練習の後は、放送室へ戻り、応募作品の収録へ。

 

 

清水 収録はどうでしたか。
乘京 今回に関しては、練習不足でした。いつもより、口もまわらなかったです。CDに録るっていうのも初めてで、慣れないです。
清水 録音することって、ないんですね。みんなの前で発表という方が緊張しませんか。
乘京 う~ん。本番があると、自然とモチベーションがあがっていくんですけど、いつもの部室だと、なかなか…。仲のいい部員たちと、どうしても「キャッキャッ」言ったりしますし、何回でも録り直せてしまうので。本番みたいな、「この1回にかける」っていう雰囲気でもないですしね。


清水
 この“アナウンスフェス”には、どういう気持ちでのぞんでいますか。
乘京 部活動の時間も今は、「2時間まで」と決まっているので、時間に追われている感じがしますし、「室内での発声練習もマスク着用で」となっているので、息苦しかったりして。みんなも、なかなか十分な練習ができているわけではないですけど、「今できることをやろう」という気持ちで、このフェスの応募もがんばっています。


清水 なるほど、ようやく活動できた部活ですしね。時間も無駄にはできないでしょうし、でも、何かその分、集中力がアップしてたりするといいですけどね。
乘京 今までは発声練習とかも、ルーティーン化していて、流し気味な時もあったんですけど、今は、1回1回が貴重なので。「あ、ここ、できひんかったな」って、後から練習し直したりとか、細かいところにも着目するようになっているところはあります。活動できなかったことが、そこまでやろうという気にさせたのかもしれないです。

 

放送委員会に入ろうと思ったきっかけは

清水 ところで、おふたりは、なんで放送委員会に入ろうと思ったんですか。
乘京 もともとは、声優さんたちのラジオドラマを聞いて、「自分も作ってみたいな」と思ったのがきっかけです。そのうち、「話し方によって、印象がだいぶ変わるな」と思うことがあって。今は、「いい印象をもってもらえる話し方を身につけたい」と、部活動を続けています。
清水 そうなんですね。自分の話し方に、どんな課題があると思っていますか。
乘京 アクセントです。関西弁が抜けないので、アクセント辞典が手放せないんです。
清水 そういえば、今日の練習でも、「『3年生』のアクセントがどうしても関西弁になるー」って、苦戦してましたもんね(笑)。
乘京 まだ、基礎・基本ができてないので、自分を見つめ直さないとなと。私のステイホーム中の目標が「事上磨錬」だったんですけど。
清水 え、じじょうまれん?!
乘京 「困難をただの困難と思わずに、神からもらったチャンスだととらえて自分を磨く」っていう意味で、それを目標にしていたつもりだったんですけど、やっぱり家は誘惑が多いので、勉強や練習をするつもりが、ついテレビを見てしまったりしました。
清水 そんなものですよ。小原さんは、なんで放送委員会に?
小原 中学時代に、地域のお祭りで司会をしたことがあって、「ビンゴ!シュート!」を繰り返すようなゲームの進行だったんですが、それがすごく楽しくて。でも、長時間話していると、声がかすれてきたりしたので、「もし、スキルを磨いたら、最後まで楽しくしゃべり続けられるんだろうな」って思ったのが、入部のきっかけです。
清水 どうですか、上達しました?
小原 持久力はあがりました。でも、それが部活の練習でなのか、体育の授業でなのかは分かりません(笑)

 

部活は、「自分をさらけ出せる場」「自分から学ぶ場」

清水 おふたりにとって、部活は、どういう時間になってますか?
乘京 遠慮せずに自分をさらけ出せる場所です。家とかだと、姉らしく振る舞いますけど、部活は、急に歌い出してもおかまいなしですし、「迷惑だ」とか「変人だ」とか、一切気にせずいられます。“恋愛”とか“女子高生”みたいな、キラキラした正統派の青春とは少しちがうかもしれないですけど、「今、ものすごく人生楽しんでるな」と思います。


小原 私は、「部活動は自学自習の場だ」と思っています。
清水 「自学自習」ですか。
小原 授業はカリキュラムに沿って学ぶ場ですけど、部活は「自分がやろう」と思って、自分たちで練習して、先生からフィードバックを受けてっていう場なので。自分が何かをやろうとしなければ、何も進歩しないですし。兼部しているほかの部活の時間とも少しちがって、放送部は自分を磨くためにやっている勉強…勉強ではなのかもしれないですけど。
清水 なんか、すごいです…(しばらく言葉にならず)。私が想像していた部活とちがって、「自分たちで学びにいく」っていう意識があって主体的に動いているから、きっと、今回の取材も「ぜひ!」と受けてくださったんですね。
乘京 はい、取材の話は、すごい光栄やと思いました。学生の今は、社会とつながることも少ないですし、特に、取材って自分が「受けたい」と思って受けられるものではないので。「新しい経験ができる」って、楽しみにしてました。
清水 その雰囲気を、実は感じました。おじゃました時、「いらっしゃいました~」って呼びに行ってくれてましたもん(笑)。

 

「仲間」「声を出す楽しさ」。大切にしていきたい

清水 これからの目標はありますか。
小原 私自身、引っ込み思案で、全然人前に立てなかったのが、放送に出合って救われたんです。声を出すことは全然恐いことじゃなくて、すごく楽しいことだし、あの時、声を出したから今、いい仲間にも後輩にもめぐまれているので。
清水 なるほどね。
小原 声を出すって、一番短いアクションだと思うんです。「ちょっとだけ勇気を出すと、楽しい世界があるよ」っていうのを、ほかの人にも伝えられたらいいなと思います。
清水 声を出すって、話すこともそうだし、歌うことも、あいさつすることも声を出すことですもんね。
小原 はい。私の将来の夢が教師になることで、教師も声を使って教えるじゃないですか。で、先生になったら、放送部の顧問になって、声を出すおもしろさ、楽しさを広げられたらなと思います。


乘京 今は、部員のみんなにも助けてもらっていると思っています。ラジオドラマ作品ひとつとっても、ひとりではできないので、私は、部活動は「みんなで」っていう部分を大事にしていきたいです。あと「今を楽しむ」っていう感覚を忘れないようにしていきたいです。

 

 

自分たちで指示を出したり、収録の工夫をしたりと、練習の時から、みなさんの主体性をうっすらと感じていましたが、お話を聞くほどに、ぼんやりとしていたその主体性の輪郭がくっきりとしていきました。「こうも自分の考えをもって活動しているのか」「こんなにも自分の言葉で自分のことが話せるのか」。驚きっぱなしでした。
「若いから」。果たして、この言葉で収まるのでしょうか。彼ら、彼女らに勢いを感じるのは、若さだけではない、“自分たちから学びや経験を得に行く姿勢”があるからなのでしょう。現役で何かの活動をし続けることには、いつか限界が来るのかもしれませんが、「経験を得にいこう」この姿勢だけは、生涯現役でもち続けていたいと思うのでした。

さて、後日放送された「#放送部の夏 高校アナウンスフェス」では、残念ながら長田高校放送委員会の応募作品は取り上げられませんでした。今後、秋の兵庫県高等学校総合文化祭など成果発表の場はまだまだあるようです。でも、放送委員会のみなさんなら、きっと、何があっても(あるいは、なくなっても)、その状況下でしか学べない何かを見つけていかれることでしょう。

 

取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美

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