0から大学を作るって、経験できることじゃないですから|vol.21

3年ほど前から準備がすすめられてきた専門職大学。「認可」という第一の、かつ、絶対的なハードルを無事にクリアし、安堵ホヤホヤの専門職大学準備課 長谷川裕也さんに広報専門員の清水奈緒美が聞きました。

 

大学を作る?!分からないことだらけの出向

実は豊岡市職員の長谷川さん。2018年1月。大学開学もまだ確定していないさなかで、県への出向を打診された。上司には、「出向はふつう2年間だけど、何年になるかも、具体的にどんなことをやるかも分からんけど、どう?」と言われたという。「大学を作るって、正直、何のことやら分からなかったですね」と長谷川さんは思いのほか淡々と振り返る。
そして、長谷川さんは同年1月のうちに、当時、専門職大学開学を担当していた地域創生課へ異動、春に専門職大学準備室ができた。最初の開学準備はずばり、“検討”だった。「但馬にどういった大学を作るのがいいのか」「いつ開学か」という検討をするべく設立準備委員会が作られ、長谷川さんは各委員との調整や庶務を行った。

 

こちらの予想を軽く超える意識の高い生徒が

翌年度からは、高校生への情報発信や相談会での説明に乗り出した。「受験情報誌へ掲載してもらったり、大きな進学相談イベントに出向きに行ったりしました。最初のイベントでは、うちのブースに来てくれたのは…確か4人くらいでした。でも、その次のインテックス大阪でのイベントでは、なんと、行列ができたんです!!開始時間前に人が集まってきてたんですけど、『これ、うちじゃないよなぁ?隣の大学だよなぁ?』って思ってたら、うちで(笑)。聞けば、沖縄、東北、長野・・全国から来てくれてました」。

進学相談イベントで生徒へ説明する長谷川さんら。学校名は当時の仮称のもの。

一体、どんな生徒が、何に惹かれてやって来るのか。「みなさん、先生からの勧めとかではなく自分で情報を調べて来てて、『演劇と観光を学べる学校は、ほかにはないので入りたい』っていうんです。併願は考えていなかったり、みなさん真剣。で、さらに驚いたのが説明会での姿勢で、ふつうは学生は説明を聞く一方らしいですが、うちのブースに来てくれる方は、自分から質問をするんですよ。意識が高いというか積極的で。正直、これだけの人材が豊岡に80人も来るとなると、豊岡のまちも変わるんじゃないかなと思うような高校生たちでした」。
私の高校時代は、進学は高い偏差値のところを目指すの一択。長谷川さんも私も豊岡市内の高校へ通っていたが、「高校1~2年生の時なんて、大学で何を学ぼうかとか、ましてや、将来のことなんてな~んも考えてなかったですよね」と、ふたりしてただただ感心した。

 

演劇祭に学校創設。どうなる、但馬

但馬に初の4年制大学ができる。地元の反応はどうなんだろうか。「それは、実際、僕らも知りたいところなんです。駅前にあれだけの建物ができ始めているので、『大学ができる』くらいは知っている人は多いと思っていますが、『では、芸術文化と観光が、どう関係しているか』まで理解されている方はきっと多くないと思います」。

会見する劇作家 平田オリザ氏(専門職大学の学長候補)

学長候補の平田オリザさんの描く展開はこうだ。「芸術文化×観光=地域づくり」。海外の演劇祭を見てみると、小さなまちに世界中から人が来てアートと観光を楽しんで帰る。富裕層の観光客も今、昼間の観光に加え、夜間の芸術体験を求めているという。そして、城崎国際アートセンターがアート・イン・レジデンス施設として成功し、近隣に数々の観光資源を持つ豊岡は、その両方のポテンシャルがあった。そこで、芸術を観光に組み込み、地域を掘り起こせる人材を育てるのだ。そのための一手はすでに始まっており、昨年、プレ事業で豊岡演劇祭を開催。実際のところ、今年の演劇祭にも(コロナ禍にも関わらず)、目標を上回る人が集まっているそうだ。
専門職大学では、学生は授業でこの演劇祭の運営に関わる。一方で、“大学は地域のものでもある”という学長候補の理念で、市民が参加できる演劇&コミュニケーションの講座なども開かれる予定。この一連の仕掛けで、芸術文化には一見縁遠かったような但馬が、観光地として、風土として、どう変わるのか…。個人的にはここが一番関心のあるところである。「今、豊岡市ではすでに全小中学校で“演劇を用いたコミュニケーションの授業”が行われているので、演劇に興味があったり、『舞台、見に行こっかな』という子が将来出てくるかもしれないと思っています」と長谷川さん。ただ、演劇が娯楽映画と異なるのが、こうした授業でなり、触れたことのない人にとっては、演劇はとっつきにくいものではないかということ。「それは、スポーツとかにも言えることで、どれだけ触れる機会があっても興味ない人はないし、地域全体の文化レベルってなると、なかなか難しいところはありますよね」と長谷川さんは答える。なるほど。入り口がなければ、愛好者は増えないが、入り口が広いだけでも全体が熟していかないということか。

 

今、入試に向けた準備を急ピッチで行っている。「開学を待って浪人している方もいたりして、受験生の期待も高いので、授業も学校生活も期待に応えられる大学にしていかないといけませんね。やることはたくさんありますけど、大学を0から作るって、やりたくてもなかなかできることじゃないですから」。
気づけば、出向期間は3年目前。「神戸での単身赴任にもすっかり慣れましたよ」。長谷川さんのまなざしは、終始穏やながらも、行政マンとして、そして、ふるさとの人間としての責任感に満ちている。

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