“いかなごを増やす”だけでいいのか|vol.016

広報専門員の清水奈緒美が、水産課で漁業管理を担当する森本利晃さんにお話を伺いました。

瀬戸内海側ではその昔、“見るのもイヤというくらい、夏くらいまでは、お弁当に必ず入っていた”という、いかなごが、最近捕れなくなっている。この2月に、カルビーから兵庫の味として、いかなごのくぎ煮味のポテチが発売されたばかり…ムムム。瀬戸内海の春の風物詩に今、何が起こっているのか。

近年の不漁、不漁‥状況は


「昔は、悪くても1万トンを下回ることはなかったんですが、平成29年から2千トン捕れていない状況ですね。いかなごは、夏に夏眠をする魚で、12月くらいに目覚めて卵を産んで、ふ化した稚魚が2~3月に30数ミリに育ったところを“いかなごのシンコ漁”として捕るんですが、漁期前の調査で、去年、今年と、いかなごの親も子どもも、全然と言っていいほどいなかったんですよね」と森本さん。

 

考えられる原因 ① 栄養

かつて「死の海」と言われた瀬戸内海は、「瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年施行)」以降、海に流れる汚染物質や、生活排水に含まれるチッ素、リンを大幅に減らすことで、水質が大きく改善した。森本さんに言わせれば「昔は、須磨でもどこでも、海水浴行ったら、自分の足が見えなくなるくらい、濁ってた」らしいが、その濁りの正体は、動物・植物プランクトン。いかなごがいなくなった原因のひとつに、このプランクトンの減少があるのではないかと言われている。「昔、生物の授業で習ったと思うんですけど、海の生態系ピラミッドの底に、基礎生産のもとになるチッ素やリンがあって、それを植物プランクトンが栄養にして、その植物プランクトンを動物プランクトンが食べる。で、いかなごは動物プランクトンをエサにしているんですが、今イカナゴに十分エサが当たってない。普通はお腹いっぱいになって夏眠するんですが、お腹が空いた状態で夏眠するから体力がなくて、産卵数も少ないし、夏眠中に死んじゃったりすることも」と森本さん。

考えられる原因 ② 水温

そして、もうひとつが温暖化。「今年は例年より2度、水温が高かったんですが、魚は変温動物ですから、水温が1度ちがったら、人間でいうと気温が10度ちがうみたいなもんなんです。それと、温暖化の影響で、昔は冬に太平洋に逃げていたカタクチシラス(ちりめんじゃこ)が、今はだらだら瀬戸内海におる。シラスといかなごは食べるもんが同じなので、ただでさえエサが少ないなかで、取り合っている状況なんです。だから、栄養と水温ですよね。他にも、海底の砂の質が昔と変わって、いかなごが砂に潜れない‥とかもあるでしょうし、いかなごにとっては悪い状態が続いているから、極端にボコっと減ったんじゃないかと考えられます」。

 

資源管理、下水、ため池…数々の取り組みも

いかなごのサイズ計測

「いかなごの不漁のため、県で取っている対策のひとつは、資源の管理です。農林水産技術総合センターが、試験操業での捕獲結果と水温から、「何月何日には何ミリに成長している」というのを予測して、なるべく大きくなってから解禁するよう指導しています。

それから、日々の漁獲量をモニタリングして、終漁を促す取組みもしています。漁業者のみなさんも、『いかなごを大事にしよう』と受け入れてもらってますね」と森本さん。今季は、大阪湾は実質2日間、播磨は実質5日という短さで漁が終わったが、来季はいかに。また、海へ流す下水処理水のチッ素やリンなどの栄養塩濃度を上げるという試みを行っているほか、海底に溜まっている栄養をかき上げ、魚が潜りやすい砂にする海底耕耘も行っている。

 

海だけに止まらず、陸地に目を向けると、私の大好きな“ため池のかいぼり”も海の栄養分を増やす取り組みだ。池の水を抜き、底に溜まった腐葉土をかき出して川、そして、海へ送る。森は(池は?)海の恋人だということだ。

いかなごを増やす…だけでいいのか

一方、減っている魚がいれば、増えている魚もいるそうだ。例えば、昔はいなかったキジハタ(アコウ)など温かい海域にいる魚や、イワシやマダイなども多く揚がるようになっている。「生物のつながりのなかで生きているものは、環境、生態系‥と、いろんな要素が合わさって今の状況になっているのでね。“いかなごだけを増やそう”というのは、考え方的にナンセンスなんです。人間にとって都合のいいように、ある種の魚や増やしたりすると、どこかでひずみを生む。種苗放流も人為的に環境を変えるという意味では、開発とも言える。いかなごだけがダメージを受けてるんじゃなくて、今、問題なのは、捕れてる魚の種類が減ってることです。いかなごやシラス、その上の大型種、いろんな魚がまんべんなくおるのが正常な海なんですよね。そういうバランスのええ海になってもらわな、なにかひとつこけたらダダダと、こけてしまいます」。

資源回復の例では、サワラがあるらしい。平成10~11年に激減し、漁の網の目を大きくしたり、秋漁を禁止したりというのをオール瀬戸内海でやったところ、一旦資源が戻ったという。「いかなごも同じように…」と思ってしまうが、生態系のピラミッドの上位にいるサワラと下位にいるイカナゴとでは同じようにはいかないとのこと。「下位の魚ほど、ちょっとした環境の変化で急に増えたりすることがあるんですが、逆に、伊勢湾のように、禁漁を続けているものの、ここ数年、調査しても子どもがいないという例もあるので、来年、資源が回復しているかと言えば厳しい状況ですね」と森本さんは添えた。

 

来年度には、豊かな海づくり大会が兵庫で開催される。「コレ!という、いかなご対策の秘策でも聞いてこよっ」と軽い気持ちで森本さんのところへ行ったが、対策を知る以前に、環境というものの捉え方や、もっと言えば、「“どうこうしたら増やせる”と思っているところに人間のエゴがあるのではないか」と問われた気がした。医療もITも今、技術革新のなかにいる。研究がすすんだら、技術が発展したら、好転することの方が多い世の中だ。だが、森本さんの言われた「人工的にある種を増やすと全体にひずみを生む」ものもあるということだ。「今まで当たり前にあったものがなくなってしまう」。そう聞くと、いきなり危機感を覚えてしまう。だが、いかなごに起きていることの背景と取り巻く環境に目を向けて、豊かな海について定義を考えていく時が来ているのかもしれない。

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