vol.006「谷口牧場」谷口隆博さん 「恐いのはコロナだけやないからな」

谷口さんは体格も声も大きい。
その谷口さんが柵に近づくと、その何倍も体格と声の大きい牛たちがすり寄ってくるのは、なぜか、ほほえましい光景でした。

今回のコロナショックで、谷口牧場でも出荷した牛に高値がつかず打撃を受けましたが、大変だったのは売り上げだけではなかったようです。

 

 

オリンピックで期待していただけに

谷口 「目から血の涙が出ますわぁ」って、テレビの取材でも言うたんやけど、今年はオリンピックがあるので、どの農家さんも夢見てました。ここ最近は、A5等級だけではのうて、A4等級の肉まで過去にない高い値がついてたので、どこまで上がるかなって。
清水 えらいタイミングやったんですね。
谷口 この春出す牛は、2年前の子牛の仕入れ価格が120万くらいでしてね。今、牛の卸値からエサ代とか肥育にかかる分を引いたら、1頭につきだいたい70万くらいの赤字ですわ。BSE問題と口蹄疫の時も値段が下がったんですけど、今回みたいに流通が滞るってことはなかったですね。
清水 値がつかなくても出荷するんですか?
谷口 やっぱり、売るのを控えたりしている分もありました。ただ、牧場にいるってことは、飼料・牧草の経費がかかってきますし、牛にとっても出荷予定時期を過ぎるのはよくないんです。しっかり肥えた頃に出荷をするんで、そうなると、人間でもそうですけど、肥えが原因で呼吸器系が圧迫されて「はぁはぁ」いい出してくる。こないだも、お腹がガスでふくれて死にそうになってたことがありましたわ。出荷する時期が予定から1か月オーバーしてましたんで。

加齢とともにすり減る牛の歯。年齢がいくと、歯がさらにすり減ることも。

 

谷口 今回、地元の食肉卸の会社が、冷凍保管をする用に、ある程度の値段で買い取るっていう事業をしてくれたので、12頭ほど出しました。今、少しずつ、買い値も持ち直しているところですね。

 

牛は家族です。人類の家族やと思います。

 

清水 私も但馬牛・神戸牛の卸売市場に入らせてもらったことありますけど、「肉って、色も脂の入りも、こんなにちがいが出るんや」って思いました。
谷口 やっぱり、牧場によって作りたい肉が全然ちがうんです。俺も、昔は市場で気になる肉があったら、卸し先、小売り店まで追いかけて、自分で買って味を調べてました。「パパ、漬け物じゃないんだから。毎日、毎日、牛肉ばっかり!」って嫁さんにも怒られてましたたけどね。
清水 そこまでして…
谷口 基本的に神戸ビーフは脂も赤身も甘いです。でも、そこに、さらにうま味を増やすのに飼料を研究してます、この25年間くらいずっと。ただ、今、世の中の肉は「色があさい、あさい。鮮やかやで柔らかいけど、肉の味がね」。いろんな料理人の人も「昔のあずき色の、あの肉はうまかったー」っておっしゃいます。
清水 谷口牧場のお肉はどんなお肉ですか。
谷口 “ お年寄りの口に優しい食べやすい肉作り、おかわりしていただける肉作り”をしてます。ある東京の老舗すき焼き屋さんで、うちのお肉も提供する肉のひとつに使ってくれているところがあるんですが、とあるお客さんがおかわりをされたことがあって―「お父さん、もう1人前だけおかわりしません?」って。それを見ていた仲居さんが「おかわりなんてめったに出ないのに…」って、驚かれたんですって。ありがたいことに、そのお客さんが食べておられたのがまさに、うちのお肉でした。


清水
 牛は谷口さんにとって…?
谷口 やっぱり、家族かな。”人類の”家族。こんな重要なたんぱく源ないと思うので。「牛さんの脂って、体の免疫力もあげてくれる」って言われてますけど、ビタミン類もあるし、抜群のたんぱく源やと思います。だから、人類の家族かなぁ。「牛肉って高いですよね」って言われるけど、それ言う人、自分は嫌いなんですよ(笑)。

事務所内に設置された畜魂碑。個人の牧場に置いているのを初めてみた。牛への敬意、ここに。

「WAGYU」に後継者不足。怖いのはコロナだけやないからなぁ。

清水 今回の新型コロナで、何か見えたことはありますか。
谷口 正直、分からん。時間が経たないと分からんなぁと。ただ、怖いのはコロナだけじゃないなと思ってます。俺は海外営業もちょくちょく行くんですよ、農家仲間には「なんで農家が海外出張行くん?」って言われるんやけど。イタリアの北の方へ行くと、「WAGYU」っていうのが人気があって。これ、オーストラリアの牛なんです。4分の1、和牛の血が入っていたら「WAGYU」と認められるんやけど、これが…おいしい。ただ、臭みがある。これは日本の交雑種、驚異ちゃうんかなぁと思いました。
清水 私もニュースかなんかで見ましたけど。
谷口 食肉もどんどんいろんな肉ができてきているし、なにより、畜産業界もみんなで盛り上げないと。でないと、新規就農で若い子が来たって、シラけるやないですか。「昔はこうだった」とか言わんように。「おっさんくさい、辛気くさい」って思われへんようにしていかんとね。

清水 今回、なにか「あれは、助かった」と思うことはありますか。
谷口 ぷっと頭に浮かんだのが、今回の国や県、行政のスピード。肉用牛肥育経営安定交付金事業(牛マルキン)の農家への補填分の支払いも早くて。「4月のえさ代、払えへんなぁ」と思ってたとこだったので助かりました。

 

谷口さんとは、畜産の話からずいぶん脱線して、「今、田舎に元気が足りんなぁ。なんでやろう」。そんな話もしました。「若い人にどうしたら農業を選らんでもらえるか」という課題も、「田舎に元気が足りない」という危機意識も、きっと谷口さんのなかの根っこは同じなんなんだろうなと思います。“みんなで盛り上げていかんとあかんやないですかー”。その一言には、牛を生業にしながら、牛のことだけを考えていない、谷口さんの憂いと責任感が表れているように感じました。

 

「谷口牧場」

宍粟市で3代にわたり50年以上、牛を飼育する。
谷口隆博さんは3代目。但馬牛を中心に約500頭を飼育する。
老舗日本料理店「浅草今半」の提携牧場。

兵庫県宍粟市山崎町葛根752-1
Tel&Fax 0790-67-0360

取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美

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