vol.022 (株)ワールド・ワン 松波知宏さん 「コロナ禍の飲食店経営とは」

思えばいつからでしょうか。飲食店へ何かしらの要請が出ている状況を「ふつう」であるかのよう感じ出したのは。
要請の「発出」と「緩和」の度に、私の想像などはるかに超える苦労が飲食店には当然あるわけで・・・。
4度の緊急事態措置と5度の延長、3度のまん延防止等重点措置が取られた、1年半の対応の変遷を松波さんに聞きました。(兵庫県において/10月26日時点)

 

 

最初の緊急事態宣言下でデリバリーと通販を。
「止まったら終わりだ」

 

神戸市に本社を置き、「土佐清水ワールド」「青森ねぶたワールド」など郷土の食をテーマとした飲食店を運営する(株)ワールド・ワン。生産者団体や行政とも多くタッグを組む同社は、19年には兵庫県と連携協定を結び、同年9月に協定店「ひょうご五国ワールド 神戸三宮横丁」をOPEN。
しかし、その翌年3月に、兵庫県内で新型コロナウイルスの感染者を初確認、世はコロナ禍へと突入していきました。

松波 3月は、忘年会シーズンに次ぐ繁忙期で、そこに向けて「食べログ」や「ぐるナビ」などのグルメ情報サイトに広告費をかけて予約を確保していくんですが、ほぼ満席くらいだった予約が2月から雲行きが怪しくなり、3月に入り宴会予約はほぼ全てキャンセルになりました。そこにかけていた何千万円がパァです。なので、その年は3月分の売り上げがまるまる届かない状態で決算を終えました。
清水 4月初旬の最初の緊急事態措置では、飲食店は時短をお願いされながらも営業自体はできましたが、どうされていたんですか。
松波 営業可能だろうが、世の中に人がいなくなったので、全店休業するしかなく・・・。アルバイトのみなさんはシフトをキャンセルし、社員の3分の2近くはいったん休業。新入社員は、入社式はぎりぎり行えましたけど、式への参加は最低限の人数で。新人研修は一切できず、新入社員も入社してすぐに休業に入ってもらいました。

清水 昨年4月には、デリバリーサービスを開始されたんですね。
松波 そうですね。「この後どうなるか」も、行政の補償内容も分からなかったですが、「何もしないのはだめだ」と思い、「出勤する3分の1ほどのスタッフでできることをしよう」と自社配達のデリバリーとお弁当サービス始めました。

「郷土の手づくり弁当」。2021年10月22日をもってお弁当デリバリーサービスは終了。

清水 そのお弁当やデリバリーで、店舗営業できない分をリカバリーできるものなんですか。
松波 立ち上げてすぐということありますし、例えば「ひょうご五国ワールド」のような200人規模の店舗の売り上げと比べると全然焼け石に水状態ですが、ただ、もともと「実店舗以外のチャンネルを増やしていこう」と、通販サイト(「+郷土」)も細々と運営していたので、昨年は、一気にそこに投資してリニューアルと拡大ができました。居酒屋を営業しながらだと、なかなかそこまで一気にはできなかったので。
清水 なるほど。どんなものを売っているんですか。
松波 これを機に新たに仕入れ始めたものも、自社で加工販売し始めたものもあるんですが、土佐清水市に支社があるので、そこで取れたかつおを現地でわら焼きにし、真空冷凍した商品とかありますよ。「止まったら終わりだ」と社長もよく言っていますが、とにかくあちこち種をまいて、どの種から芽が出るか見極めるという感じの1年半でしたね。

 

珍しい食材の仕入れ、協力金、従業員のシフト。
コロナ禍の飲食店経営とは

 

(株)ワールド・ワンの昨年度の決算は、前年比で約3分の1。要請に伴う協力金支給額について「相当分補えるのか」「全然なのか」尋ねると、「ギリギリなんとか会社を保てるくらい」とのこと。ただ、手元の現金を確保するため、「兵庫県中小企業等融資制度」など金融機関から借り入れも複数併用をする必要があるそうです。

清水 居酒屋さんは、20数店舗ほどあるんですよね。休業するお店とそうでないお店は、何がちがうんですか。
松波 例えば、「ランチ営業で集客できるお店とか、1階に店舗を構える店は、営業する」といった感じです。「換気ができてるかな?」と外からぱっと見で分からない店は閉めたりして。
清水 夜だけの営業だと、さすがにしんどいですか。
松波 例えば16時からオープンしたとしても19時半にはお酒の提供を終えないといけなかったりすると、集客数は知れています。それだったら、休業して従業員に休んでもらったり、協力金とか助成金をいただいたりという判断になります。でも、その判断も、今でこそ情報がそろってますけど、去年の4月とかはどこまで補償があるか分からないなかだったので、「どこまで休ませた方がいいのか」「損失はどれくらいなのか」と悩みました。
清水 そうですよね。緊急事態宣言中のAパターン、そうでないBパターンとか一度できてたら、見極めもすぐにできるんでしょうがね・・・。

 

清水 措置も「まん延防止」「緊急事態」と繰り返していますが、何にバタバタしましたか。
松波 昨年4月とかは、毎週のように状況が変わっていったので、行政から何か発表があるとすぐに緊急会議を開いて、「この店は開けて、この店は閉めて」と話をしたと思ったら、次の週には状況が変わって。そこの対応は、かなり、どういう風に事業計画や予算を組めばいいのか、もちろん利益も出していかないといけないので、ずっと悩んでいました。
清水 そうなんですね。
松波 感染拡大が和らいできて、営業時間も長くなってきた時に、ちょっとアクセル踏んで、従業員も復活させて、みんなでお店の掃除をして仕入れして準備してたら、1週間後に「まん防」みたいな・・・。「がんばってお客さんを呼ぼうか」なのか「呼ぶな」なのか、いち経営陣として従業員に対して、どういうメッセージを出していいかにも悩みました。
清水 その感覚は分かります。私も広報で、感染者が出ていてもイベントや催しはあるのはあるので、「ぜひお越しください」と言っていいものか、同じく悩み続けています。
松波 新規事業とかだと、思いっきし拡散していきたいんですけど、「じゃぁ、HPの写真とか、思いっきし笑顔で映るのもちがうし・・・」と、その頃は手探りでしたね。

 

清水 感染対策のスタンダードも少しずつ変わっていったように思いますが。
松波 感染対策を講じるにも費用がかかるので「どこまでやったら合格なのか」とか「やったはいいが、『実は不要でした』となったら辛いな」というのはあります。可能な限り要請に従うようにはしていましたけど。
清水 “ガイドライン”って、結構卑怯な言い方だなと思っていて、「全部を徹底できたらベストだけど『絶対』でもない」とも読めるなと思います。「『お客さんの入れ替りの度に、座席周り全部を消毒』って大変じゃないのかな?」って思ってましたけど、されてます?
松波 してます、してます。それが当たり前になってます。事業者とか、事情によっては「時短はしません」「アルコールも提供します」という店もありますが、僕らは守ってやっていかないと。
清水 飲食店としては、何が悲鳴ですか。
松波 お酒を楽しむ店としては、お酒が出せないのが致命的です。
清水 美味しい地酒もたくさん揃えられていますしね。

 

清水 昨年、感染が落ち着いてた時に私、「土佐清水ワールド」におじゃましたんですが、「メニューがちょっと変わったなぁ」と思いまして。メニューって、減らされました?
松波 売り上げが見込めない状況で、通常の仕入れをすると食材ロスが発生するので。「開けたり閉めたりの何が難しいか」っていうと、そこらへんです。お店を開けるとなると、2~3日前から仕入れして仕込んで準備しますし、「来週月曜から営業縮小です」という場合は、それまでにどれだけロスが減らせるか計算するのも大事です。
清水 お店名物の「日本酒注ぐ時、かつお節かける時のかけ声パフォーマンス」も当然・・・。
松波 なしです。あと今、従業員の数を調整しているので、キッチンの人もホールに出るとか、そういうことをやっているので、お客さんが一気にわっと来たりすると、今までのような丁寧なサービスとか会話とかをする余裕がなくなったりして。従業員もそれは辛いです。

清水 珍しい食材とかは今、仕入れにくくないんですか。
松波 ロット数が決まっているので、例えば「本当はこの部位だけ欲しくても、その部位だけ買うことはできない」ということもあります。
清水 例えば、「欲しいのはホルモンだけど、肉も一緒に買う」とか、そういうことですか?
松波 そうです。珍しいものほど、大量流通の仕組みになっていないので。山陰の料理「ドジョウの唐揚げ」というのがあって、生きたまま仕入れて、お客さんの前でドジョウをお酒で酔わせてから揚げるというメニューなんですが、その生ドジョウとかも仕入れられなくなりました。逆に、「土佐清水ワールドでも、土佐名物に限定せず、大間のマグロを出したり」とかそういう工夫はしていました。

 

人と人、会社と会社がつながって・・・「これが商売なんだ」。
銀行員時代はその実感は少なかったです

 

清水 以前は銀行マンだったそうですね。なぜ転職をされたんですか?
松波 僕は鳥取県米子市の出身で、地元を出たくて東京の大学に行ったんですけど、就職活動をする頃には「地元に帰りたいな」と思うようになって、地元の地方銀行へ就職して。県外や海外の支店で働いてみて、「あ、外から地元へ貢献できることもあるんだな」と感じていた頃に、取引相手だった今の社長と山陰の生産者めぐりをしまして。銀行員って数字とは向き合っているんですが、「リアルにビジネスしてる」って感じはほとんどなかったんですよね。
清水 そうなんですね。
松波 行員は「この数字、なんとかしてください」って取引先の会社には言うものの、その数字をなんとかするための必死の苦労を実態として知らなかった。生産者巡りをして、会社と会社とをつなぎながら「これが商売なんだな」というのを感じまして、「もうちょっとそこを経験したい」と思ったのが転職のきっかけです。


清水
 あの、実は私も同じく山陰の香美町というところの出身なんです!例えば、「カニが解禁だ」となれば、そのイベントとかメニューを「ひょうご五国ワールド」でも出されたりしていたので、ワールド・ワンは「郷土と都会の橋渡しみたいなお店だなぁ」と思っていました。逆に、そういう立場だからこその、コロナ禍の無念さは、ありますか?
松波 それは一番あります。地酒も全く発注できないですし・・・。新入社員の研修で、酒米=山田錦の田植えをしに行くということをやっていて、農家さんから今の実情を聞いたりするんですが、出口の僕らがどうにもできないんで、消費したくてもできない悔しさはすごくあります。
清水 そうして生産者さんとつながっているなら、余計に思うところはありますよね。
松波 連携している行政からも「何かの形で食材を流通させたい」「生産者支援が何かできないだろうか」と相談を受けるんですが、20数店舗稼働していた時とは流通させられる食材の量がちがうので・・・。通販サイトで、生産者さんに動画で食材のPRをしてもらったりとかはしましたが、なかなか満足いく結果にはなってないです。

 

郷土の食文化を守っていくために。
コロナ禍、居酒屋一筋からの転換期にも

 

清水 企業として、「地域の食を発信する」のか「生産者を守る」のか、めざしているところはどこなんですか。
松波 いろんな郷土にある食文化を、未来につないでいくのが自分たちのミッションだと思っています。危機感として、「全国チェーンが増えて、日本全国同じようなまちばっかりになっていっているんじゃないか」と思う部分がありまして。そうじゃなくて、その地域の特産品とか郷土料理がちゃんと評価されて、それが受け継がれていってほしいと思っています。
清水 なるほど。ただ、思うのは、「地元でしか食されない食材とか料理を都会や全国で知ってもらうのがいいか」というと、必ずしもそうでもないような気も私はしていて。でも、知ってもらうのはおもしろいと思いますね。「カメノテ(亀の手)」とか、すんごいローカルフードなものとかありますしね。知ってます?
松波 知ってます、メニューとして出したことありますよ。けっこう注文出ました。
清水 ええぇ!すごーい(笑)
松波 僕も田舎出身なので、田舎にいると当たり前に食べているものもあって、「こんなの都会の人食べないよね」と思ったりするんですけど、そこがやるべき仕事で。生産者の人に「これって、実はすごく価値があるものだから仕入れさせてください」と説得して商品化する。ブランディングできるものを磨いていって、消費の出口として、飲食店、通販、お弁当とかでちゃんと売り上げを作っていくことが、地域への還元になると思います。
清水 はい。
松波 なので、居酒屋だけをずっとやっていくというわけでもないです。今、「a la ringo(あら、りんご。)」っていう青森りんご専門店のお店を作ったり、惣菜やカフェが中心の「KOBE new WORLD」をオープンしていますが、今までの居酒屋だけだと、どうしてもおじさんたちが主な客層だったんですが、ターゲットを広げることで、触れている食文化も広がっていってるかなと思いますので。もしかすると、コロナは転換点になったのかもしれないです。半強制的かもしれないけど、経営の転換点に。
清水 すごい、そんな風に舵を切られて。
松波 今、「a la ringo(あら、りんご。)」2号店を青森県十和田市の奥入瀬渓流という観光地に出すことになったんですけど、都会の消費者にブランドとして磨いてもらって、それを逆輸入の形で青森にもっていく。で、地元の方に「こういう風に青森のりんごがPRされていることを知ってもらう」というのも新しい形だと思ったりしています。

 

 

私には企業の成長戦略というものはよく分かりませんが、ワールド・ワンのような毎年新規店舗を開店させる企業にとって、コロナ禍の営業自粛や先行きが見えない状況は、単なる「営業利益への打撃」にとどまらず、「次の新規店舗をさてどうするか」といった一手の見直しから、そもそもの経営計画の見直しまで、こちらには見えない成長機会の停滞も多々あったのではないかと想像します。
そして、もしかすると、その“成長機会”が及ぶ先は、私の地元のような、どローカルエリアの生産者や加工業者だったりするのかもしれない・・・。
コロナ禍が飲食店へ与える範囲は、「飲」と「食」だけなのかというと、恐らくそこだけに終止しない事業社もあるわけで。そんなことを心に留めながら、メニュー表の地酒をながめてみたいと思います。

 

(株)ワールド・ワン
1996年創業。飲食店・食品販売店の運営。食品の加工、流通、輸出入および販売を行う。
郷土をテーマにした店舗を全国に29店舗構える。2019年兵庫県と連携協定を結ぶ。
会社HP https://www.world-one-group.co.jp/

 

取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美

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